戦争は遠くで始まる

ロシアのウクライナ侵攻から、一年近くが経とうとしている。ずっと不思議な気持ちがあった。現実のこととは思えないような。YOUTUBEでは、ウクライナに在住するYOUTUBERが、砲撃された建物を見せてくれたり、現地のリアルタイムの様子を教えてくれる。いっぽう、ロシアでは、ロシア人YOUTUBERが、ロシア国民に街頭インタビューをして、この戦争をどう思っているのかを聞き出してくれる。

どちらも、普通に生活している人々だ。だが、その祖国同士は今、戦争をしていて、前線では兵士たちが殺し合っている。いや、厳密には、殺し合っているわけではないのだ。殺しは結果であって、ただ、ロシアはウクライナを占領したい、具体的に言えば、戦車や戦闘車両で入っていって、ゼレンスキーや要人を逮捕したい。ロシア兵士を多数送り込んで、制圧下で選挙を行い、新ロシア派の傀儡政権を樹立したい、ということなのだろう。決して、ウクライナ人を殺したいわけでも、ウクライナ兵を殺したいわけでもないはずだ。

ただ、その目的を手段を選ばず遂行する結果、ミサイルがウクライナの街に降り注ぎ、民間人が多数死ぬ。結果的には殺すのだ。

ウクライナだって、ロシア兵を殺したいわけではないはずだ。ただ、出ていってほしい。押し返したい。だが、ロシア兵は出ていかない。戦車で砲撃しながら迫ってくる。やり返すしか無い、結果、ロシア兵がばたばたと砲弾に倒れていく。死んでいく。

そして、ロシアの国民は、いらだっている。なぜなら、なぜ、自分の国がウクライナで、民間人をあんなに殺しているのか、本当のところ、よくわからないからだ。

インタビューのマイクを向ければ、いろいろと言う。これはアメリカとの代理戦争だ。ウクライナナチスを打倒して住民を解放ためだ、いろいろと言う。だが、みんな一様に、いらだっているように見える。それは、きっと、本当のところは、よくわからない、と思っているからだと思う。だが、よくわからないのに母国が他国民を殺している。それは受け入れがたいこと。なので、わかりやすい理由に、それが政府のプロパガンダとしても、飛びつくのだと思う。

そして、内心はこう思っているのではないか。俺たちは普通に暮らしているだけだ。ごく平凡に慎ましく日常生活を苦労しながら営んできた。それだけだ。悪いことはしていないし、悪い企みもないし、強欲でもない。だが、なぜか、うちの国が戦争をはじめてしまった。たしかに選挙ではプーチンに投票した。頼れるリーダーで実績も確かだからだ。ロシアはよくなった。だから悪い判断だとは思わない。だが、なぜ、息子が動員されて、ウクライナで殺すか、殺されるかしようとしているのか、それは、本当はよくわからない。

どうしてこうなった? 多くの人が内心、そう叫んでいるのではないだろうか。

そして、それが、近現代の戦争であり、その恐ろしさなのだと思う。

遠くで何か始まった。え?うちの国が戦争始めたの?で、どうなる?え?動員?え?おれ戦争行くの?

みたいな感じで事が進んでいっているようなのだ。SNSが発達した現代、戦争当時国でもインターネットが遮断されない現代、その様子がリアルタイムで伝わってくる(伝わってきているような気がする)。

そして、はじめった戦争は、勝手に終わらすことはできない。相手がいるからだ。今、ロシアが、なんか勘違いしてたかもしれないし、ちょっと疲れたから、もう戦争やめるね、と言ったところで、ウクライナは納得しないだろう。奪ったものを返せ、壊したものを賠償せよ、殺された人々の代償を払え、と迫るはずだ。このままでは済まさないぞ。始めるのは自分の都合で始められるが、終わるときは勝手に自分だけ終わりたくてもそうはいかない。

代償を払いたくないから、戦争を終われない、とくに、戦争を始めた為政者は投獄、悪くすれば殺されてしまうかもしれない。それがわかっていてやめられるわけはない。結果、どちらかに壊滅的な被害が出るところまで進んでいく。そのダイナミズムがいままさに進行しているように見える。

そして国民は、どうしてこうなった、と口をあんぐりさせながら、戦時という状況がじわじわと身に差し迫ってくるのを待っているしかできることがない。

何が悪かったのか。どこから間違えたのか、考えてもわからないから、間違っていないことにするしかない。そうやって戦時下の異様な集団心理が作り上げられていく。戦争に勝ちさえすれば、その問いもうやむやになる。突き詰められることはない。そのこともきっとどこかでわかっている。だから、とにかく勝てば、勝ちさえすれば、ということで、若者は戦争へいけ!俺たちだって行くときはいく!となるのかもしれない。

そして、もはやあまり議論されなくなっているように見えるが、こうしたことが起きたときになんとかするために作られたはずの、国連が、まったく機能しなかった、という重い事実。どうせそうなるとわかってたよ、と僕だって言いたくなるが、実際そうなってしまったのはさすがにショックだった。

ある国が、別の国に、突如軍事侵攻を始め、された国が抵抗して軍事衝突が起きたら、まずは国連が軍事介入してでも、侵攻を止める。そして平和的に仲裁する、そういうことなのだと思っていた。だが、そうはならなかった。NATOは武器をウクライナにあげている。日本もロシアに経済制裁をした。だが、軍事介入をしなかった。

そして、ロシアが言う、NATOが原因をつくった、というのも、ゼロではないだろう。ロシア国民から見て、だってそうだろう、と言いたくなる要素もゼロじゃないはずだ。長いスパンで見ればそういうふうにも見えるのだろう。

 

うーん、まだ僕自身が混乱しているようだ。このテーマはまた取り上げてみよう。きっと戦争はまだ続く。