花粉症の薬がキマってしまった

ちょっと前に、花粉症の薬を睡眠剤として使うと書いたが。その顛末を短く書く。おれは飲んだ。寝るちょっと前まで引っ張って、花粉症の薬を飲んだ。副作用に期待してだ。眠くなる可能性があります、という注意書きに賭けた。結果は…。

睡眠薬のつもりが、不睡眠薬だった。

眠いけど眠れないという状態で、朝日をはるかに通り越して、起きていた。まったく眠れなかった。むしろおかしなキマりかたをして、頭のある部分は重いけど、別の部分はスッキリ、みたいな妙な状態になって、静かになってしまった。

残念だった。眠れない記録更新しただけだった。

もちろん、朝日をいっぱい浴びたあとで、軽く朝食などとったりもして、そのあとあとで、寝た。ぐっすりだった。

さて、もういいだろう。何かを変えるときなのだ。これはサインだ。

 

本屋まで歩いた。平田オリザの新刊と、池上彰さんの新刊を買った。なぜか、池上さんは、池上、と呼び捨てにできない。なぜだろう。池上さんだ。平田オリザ平田オリザだ。平田さんではない。なぜだろう。むしろ面識があるのはオリザ氏のほうなのだが。。一回、劇を見に行ったことがあって、ちょっとだけ挨拶したのだ。ぶっきらぼうな人だったけど。でも、本に書いてることは、たいてい面白い。劇もけっこう面白かった気がする。

 

本屋へ行く途中、大通りをはさんだ向う側の歩道で、ガシャンと音がした。見ると、小さい女の子が自転車でこけていた。お姉ちゃんらしき小さい女の子も一緒で、心配そうに見ていた。こけた女の子は、泣いている感じで、ぐずぐず言っていた。とはいえ子どもなんだし、すぐにケロっとするだろうと思ったら、ぜんぜん動かない。お姉ちゃんも自転車に乗ったままフリーズしている。声もかけていないようだ。そして、なぜか、ふたりとも、俺の方を見ているのだ。

おそらく、そのガシャンに反応して立ち止まったのが、そのあたりで俺だけだったようで、ガシャンの直後から目があったまま、今でも基本、目があっているのだった。

これは、なんだろう。もしかして、何か大人が必要な事態が起きているのだろうか。。あまりそうは見えなかったが、ふたりに動きがないので、大丈夫?などと小さめに叫んで、とりあえず向こう側へ行ってみた。

女の子が、号泣ではない泣きべそかいていた。足がちょっとアザになっていたが、出血もなく、骨も大丈夫そうだった。散らばったおかしなどを拾ってやると、お姉ちゃんらしきほうがトコトコ寄ってきて、妹らしいほうに耳打ちした。「ありがとうっていうんだよ」

妹らしきほうは照れまくりながら、それでも笑顔で「ありがとう」と言うのだ。

すると、前方に大人が歩いてきたと思ったら、「おじーーちゃーーん」と姉妹は自転車を押し引きながら駆けていった。

なんだ、おじいちゃん、いたんじゃん。そうか家の近所だったのだ。

というか、電撃のような幸福が突き抜けたのを、おれを見逃さなかった。こんな可愛い子たちに、こんな可愛いことをされるいわれはない。困る。これだから、外は困るんだ。

こういうことが、ありえるから、外は。

でもこれが、外なんだ。とことこ出てきたおじいちゃんは、「ありがとよ」と声をかけてくれた。おれは、左手をあげた。

おれは、恥かしいので、ゆっくり歩いた。もう一度、あの恐ろしい天使たちに追いつかないためだ。もう、かける言葉などないのだ。

というよりも、俺はいま、大人として、何かをしたのだ、と思った。

おれは不思議だった。なぜおれが行かないといけない感じになっていたのか(勘違いかもしれないが)、なぜ、おれが行った瞬間に、子どもたちが動き出したのか。

おれはとまどいながら、行ったのだ。幼女が好きな男みたいに見えたらどうしようとかチラと思いながらだ。ほら、向こうからおばさんが来るぞ、おばさんに助けてもらえ、あ、曲がっちゃった。

おれが、足を見せてごらん、と言ったとき、ここが痛いの、と指さしながら、魔法が解けたように、動き出したのは、なんだったのか。

5メートル先にいるお姉さんらしき子も、自転車にまたがったままフリーズしていたのが、解けたらしかった。

おそらく、あの子らにしては、意外なほど大きな「事故」だったのかもしれない。だから、ビックリして固まってしまったのかもしれない。大人が行って、「大丈夫だ」と確認してやることで、動き出すことができた。そういうことなのかな、と思った。

でも、わからない。もしかすると、おれがずっと向こう岸で見てるから、動くに動けなかったのかもしれない。子どもは大人に気を使うものだから、なんらかの配慮なのかもしれないのだ。

なぜ、こんなふうにこの一件を書いてきたのかというと、心が暖かくなったあとに、無性に悲しくなったからだった。

この一連の出来事のなかに、なにか秘密がある。

なにかを俺に教えている。だけど、やっとこさ、いま、眠くなってきて、クビがぐるぐると回りだしてしまった。